人権デューデリジェンスとは?|義務化の動向や進め方・企業事例を解説
掲載日:2026.07.14
人権デューデリジェンスの基礎知識から、なぜ今求められているのかという背景、具体的な実施ステップ、企業の取り組み事例までをわかりやすく解説します。
自社やサプライチェーンの人権リスクを把握し、持続可能な経営に向けた対策を進めたい担当者必見です。
※本コラムは、2026年7月10日時点の情報をもとに作成しており、今後変更される可能性があります。
人権デューデリジェンス対応支援
SGSは、人権リスクの特定と現地調査、そしてその調査結果を基にした改善計画立案とPDCAサイクルの確立をサポートします。
取引先から人権方針の提示を求められたり、経営陣から人権リスクへの対応を指示されたりして、対応に悩んでいるご担当者も多いのではないでしょうか。
この記事では、人権デューデリジェンスの基本的な意味や注目される背景から、具体的な進め方、他社の実践事例までをわかりやすく解説します。
最後までお読みいただくと、自社でどのように人権リスクの対策を始めればよいのか、明確な道筋を描けるようになります。
人権デューデリジェンスとは
人権デューデリジェンスとは、企業が事業活動を行う上で、ステークホルダーの人権に対して負の影響を与えていないかを確認し、予防や是正を行う継続的なプロセスのことです。
まずは、この言葉の正確な定義や、国内外でのルールの動向について整理していきましょう。
| 関連用語 | 意味と概要 |
| 人権デューデリジェンス | 企業が人権侵害のリスクを特定し、予防や軽減策を実行して情報開示する一連の取り組み |
| 人権リスク | 企業活動が従業員やサプライチェーン上の労働者などの人権に及ぼす可能性のある悪影響 |
| サプライチェーン | 製品の原材料調達から製造、物流、販売を経て消費者に届くまでの全体の流れ |
専門的な言葉が並ぶと難しく感じてしまうかもしれませんが、本質はとてもシンプルです。
自社の利益だけでなく、事業に関わるすべての人々の尊厳を守るための健康診断のようなもので、病気のリスクが発覚したら予防や改善するというプロセスと捉えてみてください。
人権デューデリジェンスの目的
人権デューデリジェンスの主な目的は、自社や取引先の活動の中に潜む人権リスクを早期に見つけ出し、是正したり、未然に防いだりすることです。
ここでいう人権リスクとは、強制労働や児童労働、長時間労働、差別的な待遇など、働く人々の権利を脅かす様々な問題を指します。
企業は自社内だけでなく、原材料を調達する海外の工場などで人権侵害が起きていないかにも気を配らなければなりません。
問題を放置すれば、深刻な人権侵害に加担してしまうおそれがあるため、事前の調査と対策が重要になります。
日本および海外における法制化とガイドラインの動向
近年、欧米を中心に人権デューデリジェンスを企業に義務付ける法律の整備が急速に進んでいます。
欧州では、英国・フランス・ドイツにおいて人権デューデリジェンスに関する国内法整備が進展しています。
これに続き、2024年7月にはEUにおいて、企業の活動全体(Chain of Activities)にわたる人権および環境への負の影響に対するデューデリジェンス(特定・防止・軽減・是正)および開示を求めるCSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)が発効しました。
なお、2025年以降は規制の簡素化や実務負担の最適化に向けた制度見直しの議論も進められており、今後の具体的な適用内容や運用の方向性については引き続き注視が必要です。
日本においても義務化には至っていないものの、明確な指針が示されました。
日本政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」では、次のように述べられています。
本ガイドラインは、国連指導原則、OECD多国籍企業行動指針及びILO多国籍企業宣言をはじめとする国際スタンダードを踏まえ、企業に求められる人権尊重の取組について、日本で事業活動を行う企業の実態に即して、具体的かつわかりやすく解説し、企業の理解の深化を助け、その取組を促進することを目的として策定したものである。
このように、日本でも規模や業種を問わず、すべての企業に対して主体的な取り組みが推奨される時代になっています。
参考:内閣官房「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」
なぜ今、人権デューデリジェンスが必要なのか
世界中の企業がこぞって人権への取り組みを強化しているのには、明確な理由が存在します。
それは、企業の社会的責任が問われるだけでなく、経営そのものを揺るがす大きなリスクになり得るという事実があるからです。
| 企業側の対応状況 | 想定される結果と影響 |
| 人権デューデリジェンスを適切に実施している | ・自社の製品やサービスの提供に関わる人々の権利を尊重し、人権侵害を未然に防ぐとともに、被害を受けた人の救済につながる。 ・リスクマネジメントの強化や事業の持続可能性向上や企業価値向上につながるだけでなく、ESG投資の呼び込みや取引先からの信頼獲得にも寄与する。 |
| 人権デューデリジェンスを実施していない | ・企業活動に関連する人権侵害を見過ごしたり、適切に対応できなかったりするリスクが高まる。 ・サプライチェーン上の労働者や地域社会などに深刻な影響を及ぼす可能性がある。 さらに、こうした問題が顕在化した場合には、レピュテーションの低下や不買運動、取引先からの取引停止といった事業上のリスクにもつながる。 |
ここでは、人権デューデリジェンスへの対応が急務となっている2つの大きな背景について読み解いていきましょう。
サプライチェーンの複雑化と潜在的リスクの増加
製品が消費者の手に届くまでの工程は、国境を越えて非常に複雑になっています。
自社の直接の取引先には問題がなくても、その先の二次請けや三次請けの工場で劣悪な労働環境が隠れているケースは少なくありません。
スマートフォンの普及やSNSの発達により、地球の裏側で起きた人権侵害のニュースは瞬時に世界中へ拡散される時代です。
もし自社の製品に人権侵害が関わっていると報道されれば、企業のブランドイメージが大きく傷つくおそれがあります。
そのため、見えないリスクを可視化して管理する体制が強く求められています。
ESG投資の拡大と企業価値への直接的な影響
投資家たちが企業を評価する基準も、財務的な利益だけから大きく変化しています。
環境や社会、ガバナンスへの配慮を重視するESG投資が世界的に拡大しており、人権への対応状況も重要な投資の判断材料に加わりました。
人権リスクを放置している企業は、将来的に大きなトラブルを抱え込む可能性が高いとみなされ、投資の対象から外されてしまうおそれがあります。
逆に言えば、人権デューデリジェンスにしっかりと取り組むことは、持続的に成長できる強い企業であることを市場に示す重要な機会でもあります。
人権デューデリジェンスを実施する6つのステップ
実際に人権デューデリジェンスを進めるには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。
国際的な基準に照らし合わせると、大きく分けて6つのステップが存在します。
| 実施ステップ | 主な実行内容の概要 |
| 方針の策定 | 経営層が関与して企業としての人権方針を明文化する |
| リスクの特定と評価 | サプライチェーン全体から人権への負の影響を洗い出す |
| 防止と軽減策の実行 | 優先順位をつけて具体的な改善や支援の行動を進める |
| 実効性の追跡評価 | 実施した対策が本当に効果を上げているか定期的に確認する |
| 情報開示と対話 | ステークホルダーに向けて活動内容を透明性高く報告する |
| 苦情処理と救済 | 被害者が声を上げやすい窓口を整備し適切な救済を行う |
それぞれのステップについて、実務的な観点から詳しく見ていきましょう。
人権方針の策定と社内体制の構築
最初に取り組むべきことは、企業として人権を尊重するという姿勢を明確な方針として打ち出すことです。
経営トップの強い意志として社内外に宣言し、従業員や取引先に対して目指すべき方向性を共有するステップです。
方針を作るだけでなく、社内のどの部署が中心となって推進するのか、責任の所在と体制を整えることも重要なポイントと言えるでしょう。
人権への負の影響の特定と評価
次に、自社の事業活動やサプライチェーンの中に、どのような人権リスクが潜んでいるかを調査するプロセスに入ります。
すべての取引先を一度に調べることは難しいため、まずは事業の特性上、リスクが高そうな国や地域、原材料の調達先から優先的に状況を確認するのが効果的です。
アンケート調査や専門機関のデータを活用しながら、どこに深刻な問題が起きる可能性があるのかを見極めていきましょう。
人権リスクの防止および軽減策の実行
リスクを特定したら、それを未然に防ぐため、あるいは軽減するための具体的な行動を起こす段階へ進みます。
たとえば、取引先の工場で労働時間が長すぎる傾向があれば、適切な労働管理のノウハウを提供して改善を促す対応が効果を発揮するでしょう。
一方的に契約を打ち切るのではなく、取引先とともに課題を解決していくという協力的な姿勢が非常に大切になります。
取り組みの実効性の追跡評価
対策を実行した後は、そのまま放置せずに効果があったのかを継続的に確認するプロセスが必要です。
定期的なモニタリングや外部の監査を取り入れることで、計画通りにリスクが減っているかを検証していく作業に取り掛かります。
もし十分な効果が得られていなければ、対策の方向性を見直し、さらに改善を重ねていく柔軟性を持つことが重要となるでしょう。
情報開示とステークホルダーとの対話
自社がどのような人権リスクを特定し、どのような対策を行ってきたのかを、ウェブサイトや統合報告書などで正直に公開することが大切です。
良いことばかりを報告するのではなく、直面している課題や今後の目標についても透明性をもって伝える姿勢が信頼につながる要因となります。
投資家や消費者、NGOなどと対話を重ねることで、取り組みの質をさらに高めていくことができるでしょう。
苦情処理メカニズムの構築と救済措置
どれだけ予防に努めても、複雑なサプライチェーンにおいて人権侵害を完全にゼロにすることは困難なのが実情です。
そのため、問題が起きたときに被害者が安心して相談できる苦情処理の窓口を社内外に設けておく必要があります。
通報者が報復を受けないような保護の仕組みを整え、万が一被害が確認された場合には、迅速に適切な救済措置を講じていくことが求められます。
企業における人権デューデリジェンスの取り組み事例
理論だけでなく、実際の企業がどのように人権デューデリジェンスに向き合っているのかを知ることで、自社の活動へのヒントを得られるはずです。
ここでは、みずほフィナンシャルグループの事例を紹介します。
みずほフィナンシャルグループは、金融機関としての影響力を活かした人権デューデリジェンスを実施している企業の一つです。
同社はアジア地域での洋上風力発電プロジェクトに融資を行う際、事業者が人権へのリスクと影響を適切に評価しているかを確認する運用を取り入れています。
具体的には、建設に従事する労働者の労働・衛生・安全に関するポリシーが整備されているか、地域社会とのコミュニケーションが図られているかなどを入念にチェックし、リスクを低減させていくアプローチを採用しました。
資金を提供する立場から人権配慮を促すことで、大規模な開発事業に潜むリスクを未然に防ぐ優れたアプローチと言えます。
参考:みずほフィナンシャルグループ 人権レポート2022
まとめ
この記事の要点をまとめます。
- 人権デューデリジェンスは企業が人権リスクを特定し予防する継続的なプロセスである。
- 人権への負の影響を防止・是正するための中核的な取り組みであり、グローバルな事業運営やESG投資の観点から企業の持続可能性と信頼性にも直結する課題である。
- 実施にあたっては、以下のような一連のプロセスが求められます。
・方針の策定
・人権への負の影響の特定・評価
・防止および軽減措置の実施
・是正・救済の対応
・取組状況のモニタリング
・情報開示
- 国内外で法制化が進んでおり早期の対策が持続可能な経営の基盤を強化する。
まずは自社のサプライチェーンに関心を向け、どのようなリスクが潜んでいるかを知る第一歩を踏み出してみましょう。
監修:SGSジャパン株式会社 サステナビリティエキスパート


