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カーボンフットプリント義務化はいつから?|企業の対応策と国内外の動向を解説!

カーボンフットプリントの義務化は、現時点で日本では法制化されていませんが、EUのCBAMなど国際的な規制はすでに始まっています。
この記事では、国内外の最新動向と対象企業を解説し、企業が今から始めるべき具体的な対応策を紹介します。

カーボンフットプリントの義務化について、自社がいつから対象になるのか、どのような準備が必要なのか不安を感じている方は多いのではないでしょうか。
この記事では、国内外におけるカーボンフットプリント義務化の最新動向と、企業が直面する具体的な影響について詳しく解説します。
読み終わる頃には、自社が優先的に取り組むべきアクションプランが明確になり、自信を持って脱炭素経営を推進できるようになります。

カーボンフットプリントの義務化はすでに始まっているのか?

世界的な脱炭素の流れの中で、企業活動におけるCO2排出量の可視化、すなわちカーボンフットプリント(CFP)の算定と開示は、もはや任意の取り組みではなくなりつつあります。
多くの企業担当者が気にされているのは、それが法的な「義務」としていつから課されるのかという点でしょう。
結論から言えば、地域や業種によって状況は大きく異なりますが、事実上の義務化はすでに進行しています。
ここでは、日本国内と先行するEU(欧州連合)、そしてサプライチェーン全体への波及という3つの視点から現状を整理します。

日本では包括的な法整備はまだない

日本国内において、すべての企業に対して製品ごとのカーボンフットプリント算定・開示を法的に義務付ける包括的な法律は、現時点では存在しません。
しかし、経済産業省や環境省が中心となり、ガイドラインの策定や実証事業が進められています。
たとえば、製品単位での排出量を可視化する仕組み作りは推奨されていますが、罰則を伴う強制力を持つ段階には至っていません。
とはいえ、プライム市場上場企業に対しては段階的に、SSBJ基準に基づく気候変動リスクに関する情報の開示が求められており、その中で排出量データが必要となるケースが増えています。
国内法での義務化がないからといって、対応が不要であるとは言えない状況です。

参考:「カーボンフットプリント ガイドライン」の公表について | 報道発表資料 | 環境省

EUの規制強化で実質的な対応が必須

一方で、環境規制で世界をリードするEUでは、すでに具体的な法的義務が発生しています。
特に注目すべきは、EUバッテリー規則やCBAM(炭素国境調整メカニズム)といった規制です。
これらはEU域内の企業だけでなく、EUと取引を行う域外の企業にも影響を及ぼします。
日本企業であっても、EUに製品を輸出している場合等に排出データの提出を求められることになります。
つまり、日本国内の法律で義務化されていなくても、ビジネスを継続するためには欧州の基準に合わせた対応が不可欠となっているのです。

参考:Corporate sustainability reporting - Finance - European Commission
参考:Carbon Border Adjustment Mechanism - Taxation and Customs Union

サプライチェーン全体で情報開示が求められる

法的な義務とは別に、ステークホルダーからの要請も急速に進んでいます。
大手企業、特にグローバルに展開するメーカーなどは、自社のサプライチェーン全体の排出量(Scope3)を削減することを目標に掲げています。
そのため、部品や原材料を供給するサプライヤーに対しても、製品ごとのカーボンフットプリントデータの提出を求める動きが活発化しています。
取引先からデータ提出を要請された場合、それに応じられなければ取引縮小や停止のリスクがあるため、中小企業にとっても事実上の義務としてのしかかっています。

義務化の対象となる企業の具体的な条件は?

では、具体的にどのような企業がカーボンフットプリント関連の規制対象となるのでしょうか。
「うちは中小企業だから関係ない」「国内取引だけだから大丈夫」と考えていると、思わぬリスクに直面する可能性があります。
規制の種類によって対象となる条件は細かく規定されており、自社がどこに該当するかを正確に把握することが第一歩です。
ここでは主要な規制ごとに対象企業の条件を掘り下げていきます。

主な規制と対象となる企業の条件は以下の通りです。

 

規制・制度 対象となる主な企業・条件
EU CBAM 鉄鋼
アルミニウム
セメント
肥料
水素
電力などをEUへ輸出する事業者
EU バッテリー規則 産業用バッテリー
EV用バッテリー
携帯機器用バッテリーなどをEU域内で販売・製造する事業者

 

EUへ特定品目を輸出する事業者

EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)は、炭素排出規制の緩い国からの輸入品に対して、EU域内の炭素価格相当額の支払いを輸入業者に求める制度です。
この対象となるのは、セメント、鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力、水素といった特定の製品です。
すでに2023年10月から移行期間に入っており、排出量の報告義務が課されています。
もし自社がこれらの製品を扱っており、商流の中にEUへの輸出が含まれているならば、直ちに排出量の算定と報告体制を整える必要があります。
商社などを通している場合でも、製造元としてのデータ提供が求められるため注意が必要です。

参考:Carbon Border Adjustment Mechanism - Taxation and Customs Union

かつては一部の環境先進企業だけが取り組んでいたスコープ3ですが、今やあらゆる企業にとって避けては通れない課題となっています。
その背景には、資金提供者である投資家の視点の変化と、サプライチェーン内での企業間連携の強化という2つの大きな流れがあります。
これらに対応できない企業は、資金調達や取引継続の面で不利になるリスクを抱えることになります。

EUバッテリー規則に該当する製品の製造者

製品レベルで厳しい義務が課されている例として、EUの「バッテリー規則」が挙げられます。
これは電気自動車(EV)用バッテリーや産業用バッテリーなどに対し、カーボンフットプリントの申告を義務付けるものです。
さらに将来的には、排出量の上限値(最大許容値)が設定され、それを超える製品はEU市場で販売できなくなる可能性があります。
電池メーカーはもちろんのこと、電池を構成する部材メーカーや、それらを使用する最終製品メーカーにとっても、詳細なデータ管理と環境負荷低減への取り組みが死活問題となります。

なぜカーボンフットプリント対応が急務なのか?

多くの企業がコストや手間の面で躊躇する中、なぜ今、カーボンフットプリントへの対応を急ぐ必要があるのでしょうか。
それは単なる「法令順守」の枠を超え、企業の存続と成長に関わる本質的な課題となっているからです。
後回しにすることで生じる機会損失やリスクは、想像以上に大きなものになり得ます。
ここでは、世界的な潮流、金融市場の評価、そしてサプライチェーン管理という3つの側面から、その緊急性を解説します。

各ステークホルダーからの要請内容は以下のようになっています。
 

ステークホルダー 企業への主な要求・期待
国際機関・政府 ・パリ協定に基づく温室効果ガス削減目標の達成
・法規制の順守
投資家・金融機関 ・ESG投資の判断材料としての透明性ある情報開示
・気候変動リスクの低減
取引先(バイヤー) ・サプライチェーン全体の排出量削減への協力
・製品単位でのCFPデータ提供
消費者 ・環境配慮型製品の選択
・企業の環境姿勢への共感

 

脱炭素社会の実現が国際的な目標である

気候変動問題は人類共通の緊急課題であり、パリ協定をはじめとする国際的な合意に基づき、各国が「2050年ネットゼロ」を目指しています。
カーボンフットプリントの算定は、この大きな目標を達成するための基礎データとなります。
どこでどれだけの排出があるかが分からなければ、効果的な削減策を打つことができません。
企業活動が環境に与える負荷を可視化し、削減努力を行うことは、国際社会の一員としての企業の責務であり、対応を怠ることは社会的なライセンスを失うことにもつながりかねません。

投資家がESG情報を重要視している

金融市場においては、財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を重視するESG投資が主流となっています。
投資家は、気候変動リスクに対応できていない企業を「将来的な価値毀損のリスクが高い」と判断し、投資対象から外す傾向を強めています。
逆に、カーボンフットプリントを適切に開示し、削減に向けた明確な戦略を持つ企業は、長期的に成長可能であると評価されます。
資金調達の円滑化や株価の安定を図る上でも、透明性の高い情報開示は経営戦略上の重要事項となっています。

サプライチェーンのリスク管理に不可欠

グローバル企業にとって、サプライチェーン全体での排出量管理は避けて通れない課題です。
もし特定のサプライヤーが環境対応を怠り、排出量の多い製品を供給し続けた場合、発注側の企業全体のカーボンフットプリントが悪化してしまいます。
これを防ぐため、発注側は「環境対応ができているサプライヤー」を選別するようになります。
つまり、カーボンフットプリントへの対応は、既存の取引を維持し、新たな取引を獲得するための必須条件となりつつあるのです。
供給網から排除されないためのリスク管理として、早期の対応が求められています。

企業が今すぐ準備すべきことは何か?

義務化の流れや緊急性が理解できたところで、具体的に何から始めればよいのでしょうか。
いきなり完璧なシステムを導入しようとすると挫折しがちですが、ステップを踏んで着実に進めることが重要です。
まずは現状を把握し、徐々に精度を高めていくアプローチが有効です。
ここでは、企業が直ちに着手すべき具体的なアクションを4つのステップで紹介します。

ステップ 作業内容 ポイント
1. 活動の特定 15カテゴリから関連あるものを抽出 寄与度が大きい項目を優先する
2. データ収集 購買データや輸送実績などを整理 精度よりもまずは網羅性を意識する
3. 算定 活動量×排出原単位 公的なデータベースを活用する

スコープ3の算定は、一見すると膨大で複雑な作業に見えますが、基本的な手順を踏めば着実に進めることができます。
まずは完璧を目指すのではなく、入手可能なデータから着手し、年々その精度を高めていく姿勢が実務上は重要です。
ここでは、算定の入り口となる2つのステップについて詳しく解説します。

まず自社が規制対象になるかを確認する

最初に行うべきは、自社の製品や取引形態が、国内外のどの規制に該当するかの棚卸しです。
EUへの輸出製品があるか、取引先がプライム上場企業か、あるいは業界団体で独自のガイドラインが設けられていないかなどを確認します。
営業部門や海外事業部と連携し、顧客からの問い合わせ状況をヒアリングするのも有効です。
規制の対象外であっても、競合他社が自主的に開示を始めている場合は、競争上の必要性から対応を検討すべきかもしれません。
まずは「敵を知り、己を知る」ことから始めましょう。

算定ツールの導入や外部専門家の採用を検討する

排出量の算定は専門的な知識を要するため、Excelなどの表計算ソフトのみによる管理は困難な場合があります。
また、計算ミスや係数の誤りは信頼性を損なう原因となります。
そのような場合は、自社の業種や規模に合ったカーボンフットプリント算定ツールの導入を検討しましょう。

さまざまなサービスがあり、排出係数等の情報が適宜更新されるクラウドサービスなどもあるため、比較検討した上で選定することが望まれます。
さらに、複雑なケースや第三者検証が必要な場合は、専門のコンサルタントや、検証機関が提供しているトレーニング、GAP分析サービスなどを利用することで、的確な知見を得ることができます。

継続的な情報開示の社内体制を構築する

カーボンフットプリントの算定は、一度行えば終わりというものではありません。
毎年の排出量をモニタリングし、削減効果を測定し続ける継続的なプロセスです。
そのため、担当者個人に依存する属人的な管理ではなく、組織としてデータを収集・管理できる体制を整える必要があります。
経営層を巻き込んで重要性を共有し、関係部署の役割分担を明確にします。
また、算定結果をどのように社外へ発信するか、Webサイトやサステナビリティレポートでの開示方法についても計画を立てておくことが大切です。
情報開示の方法や内容が適切でない場合、他社との比較において自社の取り組みが正しく評価される可能性もあります。
そのため、専門家のアドバイスを受けながら、適切な情報開示の体制を整備していくことが重要です。

義務化対応で企業が得られるメリットは?

「義務だから仕方なくやる」という受け身の姿勢では、コストだけがかさむ負担になってしまいます。
しかし、視点を変えれば、カーボンフットプリントへの取り組みは企業の競争力を高める絶好の機会でもあります。
環境への配慮を経営戦略に組み込むことで、多くのメリットを享受できるのです。
ここでは、単なるコンプライアンス対応を超えた、積極的な経営上の利点について見ていきましょう。
取り組みによって得られる主なメリットは以下の通りです。

 

メリットの分類 具体的な効果
競争優位性 ・環境配慮製品として差別化
・新規顧客の開拓
・入札要件のクリア
企業価値向上 ・ブランドイメージの向上
・従業員のエンゲージメント向上
・採用力の強化
財務面 ・エネルギーコストの削減(省エネ推進)
・グリーンボンド等での資金調達優遇

 

新しいビジネスチャンスが創出される

環境意識の高い欧州市場や大手企業との取引において、カーボンフットプリントの低さは強力な武器になります。
「低炭素製品」であることを定量的に証明できれば、競合製品との差別化が図れ、高付加価値商品としての価格設定が可能になる場合もあります。
また、公共調達や大手企業の調達基準において、環境配慮が要件となるケースが増えています。
早期に対応しておくことで、これらの入札や商談に参加する資格を得られ、新たな販路拡大のチャンスをつかむことができるのです。

企業のブランドイメージと競争力が向上する

消費者や社会からの視線も厳しくなっています。
カーボンフットプリントを公開し、削減に真摯に取り組む姿勢を示すことは、企業の透明性と誠実さをアピールすることにつながります。
これは「グリーンウォッシュ(見せかけの環境対応)」ではない、実質的な信頼獲得の手段となります。
ブランドイメージが向上すれば、製品のファンが増えるだけでなく、環境問題に関心の高い優秀な人材の採用にも好影響を与えます。
長期的な視点で見れば、企業の存続基盤である「人」と「評判」を強固にする投資と言えます。

金融機関からの資金調達が有利になる

金融機関は、投融資先を選定する際にサステナビリティへの取り組みを重要な評価指標としています。
カーボンフットプリントの管理ができている企業は、将来的な気候変動リスクに対する耐性が高いと見なされ、信用格付けにプラスに働くことがあります。
また、サステナビリティ・リンク・ローンやグリーンボンドなど、環境対応を条件とした有利な条件での資金調達手段を活用しやすくなります。
資金調達コストの低減は、そのまま企業の利益率向上に寄与するため、財務戦略上のメリットも無視できません。

参考:金融庁「金融庁サステナブルファイナンス有識者会議 第四次報告書」
参考:サステナビリティ・リンク・ローン
参考:グリーンボンド

まとめ

この記事の要点をまとめます。

  • カーボンフットプリントの義務化は、EUのCBAMやバッテリー規則など海外で先行しており、日本企業も輸出やサプライチェーンを通じて実質的な対応が不可欠です。
  • 対象企業は、EUへの輸出業者や上場企業だけでなく、その取引先である中小企業にも拡大しており、早期の現状把握とデータ算定体制の構築が求められます。
  • 対応を先送りすることは、取引停止や追加コスト発生といった経営リスクを招く一方、早期に取り組むことで競争力向上や資金調達の円滑化などのメリットを享受できます。

カーボンフットプリントへの対応は、一朝一夕で完了するものではありません。
しかし、今から準備を始めれば、確実にリスクを回避し、新たな成長機会に変えることができます。
まずは自社がどの規制に関係しているかを確認することから、第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

監修:SGSジャパン株式会社 サステナビリティエキスパート

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