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ISO 14068とは?|カーボンニュートラルの新基準と企業が対応すべきポイント

ISO 14068-1はカーボンニュートラリティの実証に関する初の国際規格です。
PAS 2060との違いやネットゼロとの関係、企業が導入するメリットと具体的な手順を分かりやすく解説します。

※本コラムは、2026年6月1日時点の情報をもとに作成しており、今後変更される可能性があります。

近年、企業の環境対策に対する社会の目は厳しさを増しており、「カーボンニュートラル」を宣言するだけでは不十分な時代が到来しています。
実態を伴わない環境配慮アピールである「グリーンウォッシュ」への批判が高まる中、2023年11月に待望の国際規格「ISO 14068-1」が発行されました。
この規格は、組織がカーボンニュートラリティを達成し、それを正当に主張するための明確なルールを定めたものです。
この記事では、ISO 14068-1の概要から、前身規格であるPAS 2060との違い、そして企業がこの規格に準拠することで得られる具体的なメリットと導入手順について詳しく解説します。
読み終える頃には、自社が次に取るべきアクションが明確になるでしょう。

ISO 14068-1とはどのような規格か?

ISO 14068-1は、気候変動マネジメントにおけるカーボンニュートラリティへの移行を支援するために制定された、世界共通の新しい国際規格です。
これまで各国や団体で異なっていた「カーボンニュートラル」の定義や達成基準を統一し、透明性の高い運用を促すことを目的としています。
企業はこの規格に従うことで、自社の排出削減努力が国際的に認められた基準に基づいていることを客観的に証明できるようになります。

カーボンニュートラル実証の国際統一基準

この規格の正式名称は「ISO 14068-1:2023 Climate change management — Transition to net zero — Part 1: Carbon neutrality」です。
ここで重要なのは、単にカーボンニュートラルを達成するだけでなく、「ネットゼロへの移行」という文脈の中に位置づけられている点です。
つまり、一時的に排出をオフセットして帳消しにするのではなく、長期的かつ本質的な排出削減努力の通過点としてカーボンニュートラルを定義しています。
対象となるのは、企業などの組織全体だけでなく、特定の製品やサービス、イベント、あるいは建物など多岐にわたります。

項目 内容
規格番号 ISO 14068-1:2023
発行日 2023年11月30日
主な対象 組織
製品
サービス
イベント
プロジェクト など
核心的な目的 カーボンニュートラリティの達成・実証とネットゼロへの移行促進


参考:ISO 14068-1:2023 - Climate change management — Part 1: Carbon neutrality

グリーンウォッシュ防止の明確なルール

ISO 14068-1が策定された最大の背景には、グリーンウォッシュに対する国際的な懸念があります。
一部の企業が、自社の温室効果ガス(GHG)排出削減努力を十分に行わないまま、安価なカーボンクレジットを大量に購入することで「カーボンニュートラル」を標榜するケースが見られました。
このような行為は消費者を誤認させ、真に努力している企業の価値を毀損します。
ISO 14068-1では、こうした安易なオフセット依存を許さず、あくまで自社での排出削減を最優先事項とすることを厳格に求めています。

前身規格PAS 2060からの移行と廃止

これまでカーボンニュートラルの実証において広く利用されてきたのが、英国規格協会(BSI)が策定した「PAS 2060」という規格です。
ISO 14068-1は、このPAS 2060をベースに開発され、より厳密かつ国際的な合意形成を経てISO規格化されました。
これに伴い、PAS 2060は2025年末をもって廃止されました。
現在PAS 2060の検証意見書を取得していた企業は、速やかにISO 14068-1への移行準備を進める必要があります。
新しい規格への対応は、単なるラベルの貼り替えではなく、気候変動対策の質そのものを向上させる機会となります。

なぜ今、ISO 14068-1が必要とされるのか?

世界中で気候変動対策が急務となる中、企業が発信する情報の信頼性がかつてないほど重要視されています。
投資家や消費者は、企業の「環境にやさしい」という言葉の裏にある根拠を詳しく知りたいと考えています。
ISO 14068-1は、そのようなステークホルダーの要求に応え、社会全体で脱炭素を加速させるための共通言語としての役割を果たします。

企業の環境主張に対する監視の強化

欧州や米国を中心に、環境に関する広告規制や表示規制が強化されています。
根拠のない「エコ」「グリーン」「カーボンゼロ」といった表現は、法的な制裁対象になるリスクがあります。
日本国内でも消費者庁などが景品表示法に基づく指導を強化する傾向にあります。
ISO 14068-1という国際規格に準拠することは、こうした規制リスクに対する強力な防衛策となります。
第三者機関による検証を経た主張であれば、企業は信頼性の高いエビデンスを背景に、自信を持って対外的にアピールすることができます。
結果として、不当なグリーンウォッシュ疑惑によるレピュテーションリスク(社会的信用の失墜)や、ブランド毀損のリスクを最小限に抑えることが可能です。

ステークホルダー 企業に求めるもの ISO 14068-1の役割
投資家・金融機関 長期的な企業価値と気候変動リスクの低減 脱炭素ロードマップの客観性と進行度を立証する
消費者・顧客 製品やサービスの環境負荷に対する真実の情報 信頼できるラベルや表示を提供する
規制当局 公正な市場競争と消費者保護 グリーンウォッシュ判定の基準となる

ネットゼロ社会への移行を加速させるため

パリ協定で掲げられた「産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える」という目標を達成するには、2050年ごろまでに世界全体で温室効果ガスの排出を実質ゼロ(ネットゼロ)にする必要があります。
ISO 14068-1は、カーボンニュートラルをネットゼロに向けた「中間ステップ」として明確に位置づけています。
企業が現在の技術・経済的な限界の中で最大限の削減と相殺(オフセット)を行いながら、最終的なゴールであるネットゼロを見据えた長期的な移行計画を推進するよう促す仕組みになっています。
これにより、社会全体の脱炭素化スピードを上げる狙いがあります。

統一基準による比較可能性の担保

これまで企業が独自基準で発表していた削減実績は、他社との比較が極めて困難でした。
ある企業はオフィス電気のみを対象にし、別の企業はサプライチェーン全体を含めているといった具合に、前提条件がバラバラだったからです。
ISO 14068-1では、算定範囲(バウンダリ)の決定方法や報告すべき項目が標準化されています。
これにより、投資家や取引先は、企業の環境パフォーマンスを同一の物差しで公平に比較・評価することができるようになります。
結果として、真に環境性能の高い企業が市場で正当に評価される環境が整います。

PAS 2060との決定的な違いは何か?

PAS 2060からISO 14068-1への移行において、企業が最も注意すべき点は「要求レベルの高度化」です。
基本的な考え方は継承されていますが、科学的な整合性や用語の定義において、より厳格なルールが適用されています。
これまでのやり方がそのまま通用しない可能性があるため、詳細な差異を理解しておくことが重要です。

裏付けのある「削減計画」の策定義務化

PAS 2060でも排出削減の実績は求められていましたが、目標の立て方や計画の具体性については比較的柔軟でした。
一方、ISO 14068-1では、単なるスローガンではなく、自社の技術的・経済的限界を考慮した具体的な「削減ロードマップ(経路)」の策定と開示が義務付けられます。
これは、単に「昨年より減らします」という精神論では不十分であり、「いつ、どの設備をどう変えて、どれだけ減らすのか」という裏付けのある計画性が問われることを意味します。
結果として、SBTなどの国際基準を意識した、より実効性の高い削減体制への変革が迫られることになります。

参考:SBT(Science Based Targets)について

カーボンニュートラルとネットゼロの区別

ISO 14068-1では、「カーボンニュートラリティ」と「ネットゼロ」という言葉の使い分けが厳密に定義されました。
この違いを理解することは、企業の戦略策定において極めて重要です。以下の表でその違いを整理します。

項目 カーボンニュートラリティ ネットゼロ
(ISO Net Zero Guidelines等)
定義・位置づけ ネットゼロ達成に向けた中間マイルストーン 2050年を見据えた気候変動対策の最終ゴール
対象範囲 原則サプライチェーン全体。
ただし技術的・経済的限界による除外の正当化が可能
バリューチェーン全体の全排出源
削減の要求度 現在の限界の中で最大限の削減を優先 科学的シナリオに基づく極限までの排出削減
活用できるクレジット 削減・回避由来、および除去由来の双方を利用可能 除去由来のみに限定

使用可能なカーボンクレジットの厳格化

PAS 2060でも高品質なクレジットの使用が求められていましたが、ISO 14068-1ではその基準がさらに具体化されています。
特筆すべきは、購入したクレジットが「排出削減・回避」に由来するものか、「炭素除去」に由来するものかを明確に区別し、それぞれの内訳を詳細に開示することが義務付けられた点です。
さらに、クレジットの種類を問わず、「活動の創出から5年以内(ヴィンテージ制限)」や「国をまたぐ二重計上の防止」といった厳しい品質基準をクリアしている必要があります。
将来的にはネットゼロに向けて除去系クレジットへの移行が求められるため、企業は現在購入しているクレジットの種類や質を改めて精査する必要があります。

規格が求める具体的な要求事項とは?

実際にISO 14068-1の認証を取得し、適合を宣言するためには、規格が定める一連のプロセスを確実に実行する必要があります。
このプロセスは、一回限りのイベントではなく、継続的な改善サイクル(PDCA)として設計されています。
ここでは、規格の中核となる3つの主要な要求事項について解説します。

厳密なGHG排出量の算定と報告

すべての取り組みの出発点は、自社の排出量を正確に知ることです。
ISO 14068-1では、ISO 14064シリーズなどの既存規格に基づいた、信頼性の高いGHG排出量の定量化(算定)を求めています。
対象となる活動範囲(バウンダリ)を明確に定め、スコープ1(直接排出)、スコープ2(エネルギー起源の間接排出)だけでなく、スコープ3(その他の間接排出)についても、重大性がある場合は算定に含める必要があります。
算定から除外する項目がある場合は、その理由を正当化し、文書化して報告しなければなりません。

プロセス 具体的なアクション
1. 対象決定 組織全体か、特定の製品・サービスかを明確にする
2. 範囲設定 算定に含めるGHGの種類と活動範囲(バウンダリ)を決める
3. データ収集 活動量データと排出係数を収集し、排出量を計算する
4. 文書化 カーボンニュートラリティ報告書としてまとめる

削減活動を優先する階層的アプローチ

ISO 14068-1の最大の特徴は、「カーボンニュートラリティ・マネジメント・ヒエラルキー」と呼ばれる優先順位の徹底です。
企業は、まず何よりも自らの事業活動からの排出削減に取り組まなければなりません。
次に、自社のバリューチェーン内での炭素除去(吸収源の拡大など)を検討します。
カーボンクレジットを用いたオフセットは、あくまでこれらの努力を尽くした後に残る「残余排出量」に対してのみ適用が許されます。
オフセットへの過度な依存を排除し、実質的な脱炭素化を促すための重要な仕組みです。

残余排出量に対する適切なオフセット

削減努力を行ってもどうしてもゼロにできない排出量については、カーボンクレジットによる相殺(オフセット)が認められます。
ただし、使用するクレジットは国際的に信頼性の高い認証基準(VCSやGold Standardなど)を満たしたものでなければなりません。
また、クレジットの発行年度(ヴィンテージ)も重要であり、過去の古いクレジットではなく、対象期間に近い時期に発行されたものを使用することが推奨されます。
企業は、どのプロジェクト由来のクレジットを、どれだけの量を使用したかを透明性高く公開する義務があります。

参考:Verified Carbon Standard - Verra 
参考:Gold Standard | GS

企業が第三者検証を受けるメリットは?

ISO 14068-1への対応は、厳格なデータ管理や削減努力を要するため、企業にとって決して小さな負担ではありません。
しかし、それを上回る経営上のメリットが存在します。
世界的な基準に準拠することは、単なるコンプライアンス対応を超えて、企業の競争力を高める強力な武器となります。

環境への取り組みに対する信頼性の証明

自称の「エコ」が溢れる市場において、ISO規格に基づく第三者検証を受けたという事実は、差別化要因となります。
顧客や取引先に対して、「私たちのカーボンニュートラル宣言は、国際的なルールに則っています」と胸を張って言えるようになります。
特にBtoBビジネスにおいては、サプライチェーン全体の脱炭素化が求められているため、ISO 14068-1に準拠していることが選ばれるための必須条件になる可能性もあります。
信頼性はブランド価値そのものであり、長期的なファンや顧客の獲得につながります。

ESG投資やサプライチェーンでの評価向上

機関投資家や金融機関は、投融資先の気候変動リスクを厳しく評価しています。
ISO 14068-1の導入は、企業が気候変動に対して体系的かつ戦略的に取り組んでいる証拠と見なされ、ESG評価機関からのスコア向上に寄与します。
これにより、グリーンボンドの発行やサステナビリティ・リンク・ローンなどの有利な条件での資金調達が可能になるケースもあります。
また、グローバル企業と取り引きする際も、サプライヤー選定基準として環境規格への準拠が求められることが増えており、ビジネスチャンスの拡大に直結します。

将来的な法規制や市場ルールへの適応

炭素税や国境炭素調整措置(CBAM)など、炭素排出に対するコスト負担を求める法規制が世界中で導入・強化されています。
早期にISO 14068-1に取り組み、厳密な排出量管理と削減体制を構築しておくことは、将来的な規制強化への予行演習となります。
ルールが厳しくなってから慌てて対応するのではなく、先んじて体制を整えておくことで、規制対応コストを最小限に抑え、スムーズな事業運営を維持することができます。
これは経営のリスク管理として非常に賢明な選択と言えます。

関連記事:CBAM(炭素国境調整措置)とは?|対象品目や日本企業への影響を解説

第三者検証の取得に向けた具体的な手段は?

実際にISO 14068-1に準拠したカーボンニュートラルを達成するためには、計画的かつ段階的なアプローチが必要です。
ここでは、企業が着手すべき標準的なフローを解説します。
まずは現状を知り、計画を立て、実行し、検証を受けるというサイクルを回していくことになります。

対象範囲の決定と現状の排出量把握

最初のステップは、「何をカーボンニュートラルにするか」の定義です。
企業全体(組織)なのか、特定の製品ラインナップなのかを決定します。
対象が決まったら、基準年を設定し、その範囲内でのGHG排出量を算定します。
この段階でのデータの精度が後のプロセスの信頼性を左右するため、非常に重要です。
社内だけで算定が難しい場合は、外部のコンサルタントや算定ツールの導入を検討するのも一つの手です。

ステップ 実施内容
ステップ1 カーボンニュートラリティの対象(組織・製品等)を特定する
ステップ2 算定期間と基準年を決定する
ステップ3 排出データを収集し、GHGインベントリを作成する

裏付けのある削減計画の策定

現状の排出量が把握できたら、次は削減計画(カーボンニュートラリティ管理計画)の策定です。
ここでは、「いつまでに、どの程度削減するか」という目標を設定します。
この目標は、単なる努力目標ではなく、自社の技術的・経済的限界を考慮した上で、過去の実績を上回る野心的な経路(パスウェイ)であることが求められます。
省エネ設備の導入、再生可能エネルギーへの切り替え、生産プロセスの見直しなど、具体的な削減施策を投資計画やスケジュールと共に文書化します。
単なる精神論ではなく、実現可能性の裏付けがある実効性の高い計画が求められます。

第三者機関による検証

計画に基づいて削減活動を実行し、残余排出量をクレジットでオフセットしたら、最後にそのプロセス全体がISO 14068-1の要求事項を満たしているかどうかの検証を受けます。
検証は、独立した第三者機関(認証機関)によって行われます。
検証機関は、データの正確性、計画の妥当性、オフセットに用いたクレジットの適格性などを厳しくチェックします。
この審査に合格し、「検証意見書」を取得することで初めて、市場や投資家から信頼される、客観的な「ISO 14068-1に準拠したカーボンニュートラル」を対外的に主張することが可能になります。
検証後も、定期的なモニタリングと報告を継続し、削減努力を続けていくことが求められます。

まとめ

この記事の要点をまとめます。

•    「ISO 14068-1は信頼の証」
     カーボンニュートラル実証の新たな国際基準であり、グリーンウォッシュ防止とネットゼロへの移行を
     目的としています。

•    「削減活動が最優先」
     オフセットに頼る前に、まず自社での排出削減を最優先することが求められます。

•    「早期対応が競争力に」
      PAS 2060からの移行を含め、いち早くこの規格に準拠することで、投資家や顧客からの信頼を高め、
     ビジネスチャンスを拡大できます。

ISO 14068-1は、企業にとって「守り」のルールであると同時に、脱炭素社会で選ばれ続けるための「攻め」のツールでもあります。
まずは自社の現状を把握し、規格に沿った算定と計画策定から始めてみてはいかがでしょうか。
確かな一歩が、未来の企業価値を作ります。

監修:SGSジャパン株式会社 サステナビリティエキスパート

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